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研究課題3:細胞分裂のメカニズムと発癌

 染色体の分配過程は、多細胞生物の恒常性を維持するための最も基本的な生命現象の一つです。細胞分裂において染色体を安定に維持するには染色体を凝集し均等に分配する仕組みが必要であり、リン酸化による制御機構がその中心的な役割を担っていることが知られています。一方多くの癌細胞では細胞分裂の度に染色体数が変動する「染色体不安定性」と呼ばれる性質を有しており、この染色体不安定性は癌の悪性化を惹起し、癌細胞の転移や浸潤を促進するなど癌の病態に直接関与していると考えられています。我々は「染色体分配機構とその破綻による発癌」という研究テーマを掲げ、その端緒としてM期におけるMps1(Molopolar spindle 1)キナーゼに着目しその機能解析を行っています。これまでMps1は染色体の赤道面への整列配置や染色体の均等分配に必須の酵素として研究が進められてきました。特に分裂期前中期から終期に至る過程の様々な局面で、多彩な分子と協調しながら分裂期の適切な進行に貢献していることが知られています。ところが、その前段階である、細胞分裂開始を規定している染色体凝集への関与については全く手が付けられていませんでした。当研究室ではMps1が染色体凝集に重要な機能を果たしていることを見出しています(Kagami Y, et al. JCB 2014)。染色体凝集におけるMps1の詳細な分子機構を解明し、癌細胞においてMps1の発現や活性がどのように変化しているかを明らかにすべく、研究を進めています。

 

(1)Mps1と染色体凝集を司るcondensinとの会合が凝集に必須か否か検証する。またcondensinがMps1によってリン酸化されるかについてその部位も含めて探索し、リン酸化が凝集に寄与しているか明らかにする。さらにMps1をノックダウンすることによる染色体凝集変化とcondensinの局在変化について、細胞周期を同調して解析する。

 

(2)さまざまな癌細胞におけるMps1の発現解析を行い、その発現を人工的に変化させた際の染色体凝集への影響を観察する。さらに癌臨床検体を用いてMps1の発現解析を行い、condensinの局在との相関について検証する。

 

 これらの研究を通じて、間期から核膜が崩壊するまでの移行期である「前期」での機能貢献を明らかにすることが出来れば、Mps1が分裂期全過程において中心的な働きを担っている、まさに分裂期キナーゼとして新しい概念が提示できると期待しています。次のステップとしては、癌治療においてMps1が適切な分子標的候補として可能性を有しているかについて追求して行きたいと考えています。

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